(『分断社会を終わらせる:「だれもが受益者」という財政戦略』(筑摩選書、2016年1月)

 穏健な中道保守の野党再編のためには、安倍自民党とは一線を画する経済政策が必要です。民主党の若手政治家の仲間と模索してきましたが、なかなか新しい枠組みが見つかりませんでした。

そんな中で、井手英策、古市将人、宮崎雅人共著、『分断社会を終わらせる:「だれもが受益者」という財政戦略』(筑摩選書、2016年1月) が大きなヒントを与えてくれました。

 国際比較をすると、日本は政治家や官僚を信頼しない度合いが高いばかりか、一般に他人を信頼しない度合いも高いことが指摘されています。

 著者は、自己責任主義の下、これまで国民を分断する予算配分を行ってきたことも、相互不信の社会をつくる要因だと分析。
 
 所得の多寡に着目した「救済型の再分配」が分断をもたらしたと評価します。多くの人は自分を中間層だと思っていますから、再分配政策は低所得者に自分の税金を使われるという意味で、自分は負担者になると考えます。その意味でも、格差の是正をするための増税には、強く抵抗することになります。

 一方で、北欧の国では、社会保障は普遍主義ですから、すべての人が対象になる「共存型の再分配」を行っています。単純に再分配を支持しているのではなく、すべての人のリスク、たとえば失業のリスクや高齢者の所得保障を国民全員にカバーすることで低所得者にも給付が行われることになります(結果としての格差是正)。そうなると、増税への抵抗感は少なくなります。

 たとえば、今回の消費税増税ついて考えてみましょう。

 軽減税率の問題点はこのブログでも書きましたが、なぜ、このような問題の多い制度が支持されているのでしょうか?

 今回の5%の消費税増税の内、4%分は借金の肩代わりで国民生活へのプラスは1%分だけでした。

 これまでの日本では、減税ばかりで純増税の経験はありませんでした。消費税の導入時も5%への引上げ時も、所得税減税との抱き合わせで歳入中立でした。

 ですから、純増税が日本国民にはきつかったのです。自分たちにすぐにプラスにならない増税には抵抗感があります。その結果、お金持ちほど得をするなど低所得者対策にならなくても、軽減税率という形の減税を国民が求めたのでしょう。

 また、安倍政権は政権奪還後ただちに生活保護の水準を約8%カットしました。このような格差を広げる政策を国民が支持をしたというのも、「救済型再分配」が分断を生む証拠です。

 著者は、社会保障を普遍主義の観点から再構築し、すべての人に負担をお願いし、すべての人に受益をお返しする「共存型の再配分」を提案しています。

 たとえば、医療や教育について、所得制限を付けずに現物給付すれば、結果として格差の是正も可能になるとしています。

 このようなサービスはすべての国民にとって必要なものであり、ターゲッテイングせずに給付するべきであり、結果として所得の低い層ほど利益も大きいため、格差の是正ができます。そうなると、増税への抵抗感も薄まるというのです。

 労働力人口が減少し、資本投資が見込めず、潜在成長率が0~0.5%の日本にとって、国民一人ひとりの人材の生産性を上げることしか成長戦略はないはずです。

 そのためには、低所得者ほど裨益する小児医療や幼児教育をはじめ高等教育までの無償化によって、人材育成することが重要です。もちろん、所得制限など設けずに、すべての人が対象になります。

 また、著者はこれまでの財政再建至上主義も批判します。

 国民が幸せになるために財政があるのに、増税を避けるために必要な教育や社会福祉の予算をカットすることだけを目標にしても財政再建は不可能。

 信頼の社会を築いて、増税への抵抗感を和らげるべきだとの主張です。


 江戸時代の財政家山田方谷が、歳出カットと増税をしても財政再建はできない、領民が幸福になって明るく暮らせるようにすれば自ずと財政も再建されると述べ、実際に成功していることと共通しています。

 「だれもが受益者」という財政戦略です。これまでの日本の政治を180度転換させる大胆な発想ですが、説得力があり、野党再編の旗印になり得る考え方だと思います。